デジタル消費需要の急速な拡大を背景として、電子商取引(以下「EC」といいます。)は著しい発展を遂げ、経済成長を牽引する重要な原動力の一つとなっています。ベトナム商工省の公表によれば、ベトナムにおけるEC市場は年平均20%~30%の成長率を維持しており1、市場規模は310億米ドルに達し、商品および消費向けサービスの小売総額の約10%を占めています2。もっとも、現行のECに関する法的枠組みは主として政令レベルの規定により構成されているため、関連規定が分散的であり、体系性に欠けるという課題があります。また、デジタル経済の進展に伴って登場した新たなビジネスモデルや、これに伴い生じる複雑な法的課題の多くについては、いまだ十分な法的整備がなされておらず、いわゆる「法的グレーゾーン」が存在しています。そのため、電子商取引分野を包括的かつ統一的に規律する、より整合的で包括的な法的枠組みの整備が求められています。
こうした状況を踏まえ、ベトナム国会は2025年12月10日、2025年電子商取引法を正式に可決しました。同法は2026年7月1日に施行される予定であり、ベトナムにおいて電子商取引を包括的に規律する初めての専門法として、重要な節目となるものです。以下では、本法の主な注目点についてご紹介します。
- ECプラットフォームの分類
ECプラットフォームとは、ECを実施するために構築されたデジタルプラットフォームをいいます3。同法において、ECプラットフォームは、その運営形態に応じて、以下の4つの類型に分類されています。
- 直接販売型ECプラットフォーム:組織または個人が自ら設置し、商品を直接販売し、またはサービスを直接提供するためのECプラットフォームをいいます4。
- 仲介型ECプラットフォーム:他の組織または個人がアカウントを登録し、当該プラットフォーム上で商品若しくはサービスの紹介、商品の販売又はサービスの提供を行うことを可能にするECプラットフォームをいいます5。
- EC機能を有するソーシャルネットワーキングサービス:オンライン通信、オンライン注文又はライブ配信による販売の機能のうち少なくとも一つを備え、契約の締結および電子商取引の実施を支援するソーシャルネットワーキングサービスをいいます6。
- 統合型ECプラットフォーム:他のECプラットフォームを当該プラットフォーム上に統合することを可能にするECプラットフォームをいい、当該統合型ECプラットフォーム自体に対して電子商取引支援サービス又はオンライン通信サービスのみを提供するプラットフォームは含まれません7。
- 仲介型ECプラットフォームにおける販売者の本人確認
販売者は、仲介型ECプラットフォーム上で商品の販売を行うことが認められる前に、2025年電子商取引法および電子識別・電子認証に関する法令の規定に従い、当該プラットフォームの運営者による電子的な本人確認を受けなければなりません。販売者が外国の組織又は個人である場合には、本人確認は適法な証憑書類に基づいて行われます8。
ECプラットフォームの運営者は、電子認証サービス提供機関のサービスを通じて電子的本人確認を行うよう求めています9。現在、当該サービスを提供する唯一の機関は、ベトナム公安省傘下の社会秩序行政管理警察局に所属する住民データ及び国民IDカード研究・応用センター(RARセンター)です10。ECプラットフォームの運営者による電子的本人確認の実施には、電子識別情報の主体の同意が必要であり、当該同意は、VNeID上での確認、本人名義の電話番号宛てに送信されるSMSによる確認、又は法令に定めるその他の確認方法により行われます11。
電子的本人確認制度の導入により、権限を有する国家機関は、販売者を追跡し、偽造品又は知的財産権を侵害する商品の販売事案を処理することが容易になります。これにより、税務当局による管理の効率化が図られ、国家予算の税収漏れの防止に資するとともに、取引の信頼性が向上し、プラットフォームを利用した違法行為の抑制および消費者の権利利益の保護につながることが期待されます。
- ライブ配信販売およびアフィリエイトマーケティングに関する規定の新設
2025年電子商取引法により、ライブ配信による販売およびアフィリエイトマーケティングが初めて法の適用対象として明確に位置付けられました。これに伴い、販売者と同様に、ライブ配信による販売を行う者およびアフィリエイトマーケティングを行う者についても、本人確認のために必要な情報を提供する義務が課されています12。
また、販売者は、ライブ配信による販売を実施する前に、ライブ配信による販売を行う者に対し、以下の事項を証明する書類を十分に提供する責任を負います。
- 条件付投資・事業分野に該当する業種について、当該業種に適用される投資・事業条件を満たしていることを証明する書類(該当する場合)
- 製品又は商品が、製品・商品品質に関する法令に基づく品質要件を満たしていることを証明する書類13。
- 外国要素を有するEC活動に対する規制の強化
2025年電子商取引法は、外国要素を有するECについて規定するため、第IV章を新たに設けています。ベトナムにおいて活動を行う外国ECプラットフォームとは、外国の組織によって管理され、外国において適法に活動しており、かつ以下のいずれかに該当するプラットフォームをいいます。
- 表示言語としてベトナム語を選択する機能を有すること。
- ベトナムの国別トップレベルドメインである「.vn」を使用していること。
- ベトナム国内の購入者との取引額が法令で定める基準に達していること(ただし、オンライン注文機能を有しない直接販売型ECプラットフォームは含まれません。)14
仲介型ECプラットフォーム、EC活動を行うソーシャルネットワーキングサービス又はオンライン注文機能を有する統合型ECプラットフォームについては、その運営者は、ベトナム語表示又は「.vn」ドメインの使用を開始する前、又はベトナム国内の購入者との取引額が法令で定める基準に達した後に、ベトナムにおいて法人を設立しなければなりません。ただし、ベトナム法令又はベトナムが締約国である国際条約に別段の定めがある場合は、この限りではありません。15
国際条約によりベトナムにおける法人設立を求めることが認められていない場合には、プラットフォームの運営者はベトナムに法人を設立する必要はありませんが、以下の義務を履行しなければなりません。16
- 授権に基づき、ベトナムにおける法人を代理人として指定すること。
- ベトナム国内の銀行に保証金を預託し、消費者に対する損害賠償の履行及び国家に対する財務上の義務の履行を担保すること。
- 電子商取引プラットフォームの管理および運営に関する条件を満たすこと。17
2025年電子商取引法は、ベトナムにおけるEC活動に対する統一的かつ包括的な法的基盤を整備するものであり、重要な前進と評価することができます。ECに関する法的枠組みの整備は、消費者の権利利益の保護を強化するだけでなく、適法な商品を取り扱う誠実な事業者にとって、透明かつ健全な事業環境の構築にも寄与し、ひいてはデジタル経済の持続可能な発展を促進することが期待されます。
Dentons LuatVietは、本稿の作成にあたり、シニア・アソシエイトNguyễn Đức Anhおよびトレーニー・アソシエイトPhạm Thanh Thủyから賜りました貴重なご助言と専門的なご協力に深く感謝申し上げます。
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